2009年4月17日金曜日

本:「麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか」


 学会で上京するが、また新型インフルエンザ関連の講演がある。以前に何回か類似の講演は聴いたが、正直、私のような町医者に役に立つ内容ではない。いざパンデミーが起こっても、出来ることは、電話対応と抗ウイルス薬の処方ぐらいであろう。むしろ、エピデミックで押し寄せる患者さんを診ていると、いざそのとき、きちんと発熱患者さんは受診せずに家に居てくれるのか?抗ウイルス薬は滞りなく供給されるのか?医療全体では、通常の医療体制も綻びを見せているので、完全に医療システムは破綻することは、想像に難くないが、ベッドは確保できるのか?それらの不安に対し、「新型ウイルスとは?」に始まり、具体的な行動計画の到達に触れずに終わる講演では、むしろ、欲求不満が蓄積されるのである。

 そんなときに読んだ一冊である。内容に関しては、紀伊國屋書店のBookWebに詳しい。帯のコピーや前書き、章立てが書いてある。しかし、帯のコピーの「アメリカ116人vs日本27万8000人(2001年度の麻疹罹患患者数)」の部分が、故意かどうか、省かれているのが気にかかる。

 閑話休題。読後の感想。タイトルが大人しく感じた。「麻疹が流行する国で新型インフルエンザは防げるのか」という問いかけは、感染症に 止まらない日本という哲学なき泥縄式システムへの根源的な批判ということを含意したかったものと推察する。同じ反語形式で、例えば、「派遣切りが横行する国で子供は増 えるのか」とかいう連想が可能だからである。しかし、「感染症途上国、日本」とか「感染無防備列島」とか、センセーショナルなもの でもよかったと思う。特に前半と結びの当たりは、医療者以外にも分かるよう感染症診療の問題点がすっきり整理されており、広く読まれるに値する一冊だからだ。

 私の新型インフルエンザに対する不安は払拭されないが、システムに対する漠とした不信が、本書では明示されており、いくぶん欲求不満は解消した。

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